萎びたネギの添えられた乾いたカツオのたたきを目の前に出され、
「ああ、歓迎されていないな」と 思わずにはいられなかった。
経営に余裕があるようには見えない。だからこそ一人一人の客を大切にしなければならないんじゃないか。
そんなことを心の中で何度も反芻しながら更に運ばれてきたものを見ると、そこには噴飯ものの光景があった。
しかし実際に飯を噴くことはなかった。何故ならば主菜であるカツオのたたきに対し運ばれてきた主食は、パンだったからである。
これはとある有名な文豪が、年越しをたまには旅館で過ごしてみようじゃないかと思い立ち、敢えてそんな時期に予約がスッカスカだった旅館を選び、そこで起こった悲惨な出来事を事細かに綴った随筆の傑作の一部です。